00から11まで、一匹から始めて、群れを作り、壊し、つなぎ直してきた。最後に、何を作ってきたのかを整理する。

先に言うと、作っているのは、ラットの再現ではない。条件を一つずつ動かして、群れが崩れるか、残るかを見る、小さな観察装置。装置を足すたびに崩壊の境目が動き、その動き方を読んできた。再現ではなく、整理。

一本の弧として

ばらばらの実験に見えて、つながっている。

00と01では、一匹を作り、局所の規則だけを足した。順位も、群れも、縄張りも、繁殖も、設計せずに群れの側から出た。設計していない構造が立ち上がる、創発

02で、その群れを壊した。餌が足りても、社会の受け入れ能力が尽きれば崩れる。最初に途切れるのは、個体の数ではなく、次の世代へ渡すもの。03で、つながらない相手も助けると、とくに教えると、崩壊が遠のいた。

04から06は、その「渡すもの」を追った。渡すものは声に乗り(04)、それを知る教え手と一緒に死に(05)、記録と儀礼にすれば教え手より長く生きる(06)。07では、同じ印を分け合えば、助け合いが血縁を超えた。08では、見られていれば、ただ乗りが抑えられ、協力が残った。

09から11は、その「渡すもの」の中身に踏み込んだ。社会的能力は固定値ではなく、経験で変わるウェイトだった(09)。経験は記憶として残り、覚えすぎても忘れすぎても協力は崩れた(10)。そして、誰と出会うかは、箱の空間が決めていた(11)。

どれも別々の話ではない。同じ群れの中で、崩す力とつなぐ力が、互いに効いている。

動かす、というやり方

モデルは、現実を小さくする。小さくすると、何を変えたのかが見える。

崩壊は、装置に直接書かない。「混んだら子を産まない」と書けば、それは観察ではなく、決めた結末になる。だから、崩壊はどこにも書かず、条件を一つ動かして、勝手に現れるかを見る。資源を変える。愛の範囲を変える。印を変える。記録を変える。見られ方を変える。記憶の長さを変える。箱の形を変える。そのたびに、群れの振る舞いが変わる。

# 答えは書かない。条件を一つ動かして、群れが崩れるか、残るかを見る。
colony = Colony(space, rats)
for condition in [:capacity, :love, :tag, :record, :watching, :memory, :space]
    result = simulate(colony; vary = condition)
    observe(result)
end

大事なのは、答えを最初から持っていることではない。条件を動かしたとき、何が変わるかを、目で見られること。

再現ではなく、整理

現実のラットには、体があり、匂いがあり、声があり、発達があり、疲れがある。ここのラットには、その多くがない。だからこのモデルで、現実のラットを直接説明することはできない。見ているのは現実そのものではなく、関係が崩れたり残ったりする条件のほう。

この試みは、人工生命にも近い。ただし、生き物を丸ごと作るのが目的ではない。単純な個体を置き、環境を与え、行動を更新し、経験を残す。その繰り返しから、群れらしい振る舞いが出るかを見る。生きているかを判定したいのではなく、生命や社会に見えるものが、どんな条件から立ち上がるのかを見たい。

愛とは何か。仲間とは何か。信頼とは何か。崩壊とは何か。すぐに定義しきることはできない。でも、変数として置くことはできる。置いて、動かして、崩して、直して、もう一度見ることはできる。例によって、ネズミの皮をかぶった最小の個体での思考実験として読んでほしい。そのための最小の装置として、ラット群を作っている。

ここから先は、二つに割れる。モデルをより正確にすることと、見えた結果を言葉に直すこと。体、匂い、音、発達——まだ入れていない細部は多い。それでも、群れが残るか崩れるか、その境目で何が効くのかは、もう動かして見られる。ラット群は、そのための小さな観察装置だ。

補足

  1. 創発: 局所の単純な規則から、設計していない全体の構造(順位・群れ・縄張りなど)が立ち上がること。
  2. モデル: 現実の一部だけを取り出し、変数として動かせるようにしたもの。再現とは違い、変えた条件と結果の対応を見るための道具。
  3. 人工生命: 生命らしい振る舞いを、人工的な環境や計算の中で調べる領域。Langton らが立てた呼び名で、「あり得た生命」まで含めて考える。