06で、知識を記録に出して皆で繰り返せば、文化は教え手より長く生きると分かった。その記録は、知識だけでなく物語も運ぶ。同じ物語を分け合う相手は、仲間になるのかもしれない。
03では、血のつながらない相手を助けると、崩壊が防げた。でも、なぜ助けるのか。何が、家族でもない相手を、助ける側に入れるのか。先に言うと、血ではない。同じ印を分け合うことが、他人を仲間に変える。打算だけの群れは8割近くが絶滅し、血縁だけを助ける群れでも半分が消えた。でも、同じ印を持つ相手まで助けると、絶滅は3割を切った。次の装置では、個体に「印」を配る。
同じ印を持つ相手を、助ける
これまで、助ける理由は血のつながりだけだった。自分の子や近い血縁を助ければ、自分に近いものが残りやすい*。説明はつく。でも、大きな群れでは、まわりが血縁とはかぎらない。
そこで、各個体に「印」を一つ持たせる*。色でも、名前でも、合図でもいい。ここでは中身を抜いて、個体が持つ分類として扱う。最初はみんな違う印を持っている。つまり、はじめは他人どうし。
助ける相手は、こう決める。血縁なら助ける。または、同じ印を持っていれば助ける。それ以外は助けない。印そのものに、もとから意味はない。赤が偉いわけでも、青が正しいわけでもない。同じ印を分け合っている、それだけ。意味は、共有されることで生まれる。
function help_or_not(self, other)
# 血縁か、同じ印を持つ相手だけ助ける。印に中身はない。共有されているかだけを見る。
if is_kin(self, other) || self.tag == other.tag
help(other)
end
end
印の伝わり方は、二つ用意した。一つは、親から受け継ぐ。子は母の印をそのまま持つ。この場合、印は血縁のしるしに近づき、助ける相手は結局、家族の線に沿う。もう一つは、群れの中で広がる*。子は、そのとき群れで多い印を受け取る。親と違っても、まわりが持っていれば、それを身につける。この場合、印は血縁を越えて広がりうる。
印がそろうと、崩壊が止まる
16巣という厳しい装置で、三つを比べる。打算だけの群れ、血縁だけを助ける群れ、同じ印も助ける群れ。
打算だけの群れは、8割近く(79%)が絶滅した。血縁だけを助ける群れでも、半分(50%)が消えた。同じ印を持つ相手まで助ける群れは、絶滅が3割を切った(29%)。03で見た、相手を選ばず助ける群れと同じか、それ以上に崩壊を抑えた。家族の外まで手が届くだけで、閉じた装置を、より少ない壊れ方で持ちこたえる。
効いたのは、印を持つことではなく、印がそろっていくことだった。最初はばらばらの印が、子が多数派を受け取るうちに種類を減らし、やがて多くの個体が同じ印になる。そのとき、血縁でない個体どうしも、同じ仲間として扱われる。
仲間は、血では決まらない
ここで分かるのは、何を仲間とみなすかが、血だけでは決まらない、ということ。
親から印を受け継ぐだけなら、印は血縁のしるしに近づき、助ける範囲は家族に閉じる。でも印が群れの中で広がると、血縁でない相手も同じ印を持つ。すると、助ける理由が変わる。家族だから助けるのではない。同じ側だと扱われるから助ける。この違いが、群れの崩壊率を変えた。
同じ印を、事実として同じ血を持つから助けるのではない。同じ側として扱う規則が、群れの中で共有されているから助ける。仲間の境界は、血のつながりではなく、分け合われた規則のほうで引かれている。
ここでいう「印」は、現実の文化や宗教や国家そのものではない。個体が印を持ち、それで助ける相手を選ぶという設定は、かなり抽象化されている。例によって、ネズミの皮をかぶった最小の個体での思考実験として読んでほしい。それでも、見えることはある。仲間の線は、生まれつきではなく、共有によって引き直せる。
ただ、仲間が広がると、別の隙ができる。助けてもらうのに、自分は助けない個体。同じ印だけを使って、コストは払わない。そういうただ乗りを、何が抑えるのか。次の装置では、見られていること、記録に残ること、死んだあとに残る評判を扱う。
補足
- 血縁利他: 血のつながった個体を助ける行動。近い血縁が残れば自分に近い遺伝情報も残りやすい、という Hamilton の血縁淘汰の考え方による。
- 共有タグ(タグベース協力): 個体が持つ印(色・名前・合図など)が同じ相手を助けるしくみ。印そのものに価値はなく、共有されることで仲間の範囲が決まる。Riolo・Cohen・Axelrod らが、タグだけで非血縁の協力が広がりうることを示した。
- 水平伝達: 親子の縦の継承だけでなく、群れの中で横に広がる伝わり方。ここでは、子が群れの多数派の印を受け取る形で表した。